2016年10月16日日曜日

誰かに決められたトンカツの食べ方で食べるトンカツなんてトンカツじゃないなんて言わないよ絶対


あの運送屋のトラックから飛脚が消え アルファベットのロゴになったときに
ボクは生きてゆく希望と光を 亡くした

トラックに描かれた 飛脚の赤いふんどしに触れると
いつか幸せになれる そんな出どころの解らないそれを ずっと信じていた

そんなことを信じないと 生きていけないくらいに
ボクは 狭苦しいなにかに頭を突っ込んで 暮らしていた

それは己がしたことなのか 環境がそうさせたのかは
そのときのボクには わからなかった

学校にいても 家に帰っても 図書館へ行っても
ボクの言葉の届く人など どこにもいなかった

言葉を声にしようとしても ただ息苦しく 
微かに鳴ったその音は どこへも届くはずもなかった

悪い夢をずっと見ているような心地だった

ボクはそんな 狭苦しい何かに頭を突っ込んで暮らしていた


いつか ボクの声が聞こえる人に 出会えるはずだと
願いを込めて触れていた 赤いふんどしが トラックから消えたのだ

一人 学校の帰り道 いつもだいたいあの時間 だいたいあの橋のたもとに
止まっていたトラックの 赤いふんどしに触れて帰るのが日課だった

その日から その運送屋のトラックから飛脚が消え 

アルファベットのロゴへと 変わってしまったのだ

ボクは絶望した 

救いもなにも亡くし ただトボトボを歩く その通学路の商店の

ステレオのラジオから ブルースハープが聴こえた

その音楽は ボクのノドをギュッとさせてたモノを すっと解いた

ボクはしばらく 商店の前で足をとめて 聴き入った



そんなことがあってから 何十何年という時が経った

音楽家が ノーベル文学賞を 受賞したことで
そんな大人にもなれない 幼い頃のことを思い出してした

本に限らず 歌のその歌詞に 救われたり学んだことも たくさんあった

なんてボクが 文にするとまた薄っぺらく胡散臭い


兎にも角にも 音楽家がノーベル文学賞を受賞したことを
とても喜ばしく思った 昨日と今日だった



後世に語り継ぎたいと思う歌って たくさんあるもんだ

2016年10月9日日曜日

じゃがいもを茹でながら 君は何をする


雨が降り出したのか 何かの鳴き声で目を覚ます

雨が降っている 雨に濡れたい日もある そんな日もある


高校3年の文化祭前のこと 生徒会役員をしていた僕は
”ミス&ミスター”的な 我が母校の美男美女を投票で決めるヤツの
開票作業に追われていた 文化祭が迫っていた

文化祭の運営資金や 感動のラストを飾る花火のための
スポンサー集めで 街を走り回ったり
全校生徒から集めた素材を 大きな絵にするという作品づくりも
同時進行で 同時に進めていた最中での 
少しだけ疲れが見え隠れしていた開票作業だった

なんとなく予想をしていた 男子や女子の名前が
なんとなく予想をしていた通り 票を重ねてゆく

次に開いた投票用紙にボクの名前があった

ボクは冷静なフリをして 自分の名前を読み上げた
隣で正の字を書いてした実行委員の女子が一瞬 躊躇したように見えた

それからは なんとなく予想をしてた通りの順位で
トップ3が それぞれ決まった

後にも先にも 僕の名前は 一票だけだった

開票が終わった生徒会室の外は少し暗くなって 少し雨が降っていた

雨の多かった 夏が終わる頃のことだった 

ボクは濡れながら駅まで自転車に乗って帰った 
「雨に濡れることも 悪くないな」と思った

あんなに疲れていたのに翌朝が いつもと違う朝だった
いつもの電車 いつもの奴ら いつもの景色が いつもと違って見えた

あんなに退屈だった授業を楽しく思えた 
休み時間 生まれて初めて ヘアワックスを頭に塗りつけた
いつもよりカッコつけて 他のクラスや学年の教室の前を歩いた

放課後 生徒会室へ向かうと 生徒会室の前の駐輪場に後輩がいたので 
ボクは昨日よりクールに話しかけた 彼はボクをとても慕ってくれていた

会話はすぐに 昨日の投票結果のことになった
文化祭までシークレットなだけあって 誰もが気になっていた

「だいたい予想どおりだよ」「そうですよね」 なんて談笑し

いくつか他のことも話したあとに ボクは少しだけ口を尖らせて

「じつは一票だけオレに入っていたんだよね」と
少しだけ勇気を出して少しだけ自慢気にゆうと

「その一票オレっす」と 屈託のない笑顔で 答えた

「ぉお」とボクは 変な返事をして「じゃあ」と言って生徒会室へ入った


そしてまた少し暗くなったころ また雨が降り出した 

ボクは 自転車に飛び乗り 駅へ向かった

雨音の向こうで 何かの鳴き声が聞こえた ボクも泣いていた

ブサイクでモテないことを理解していたようで 
受け入れることが出来ていなかった自分が 情けなくて泣いた


それでも笑って文化祭を迎えた

たくさんのトラブルもあったけれど 得意の笑いで乗り越えた

後夜祭 全校制作の絵は校庭の真ん中で燃やした
それは美しくて大きな大きな 炎だった

生徒会の皆が泣いていたのを ボクは横から笑ってみせた 


最後に 打ち上げ花火が上がった 校庭と校舎を明るく染めた


ボクはあの打ち上げ花火のことを ずっと忘れないだろう


まだ雨音が聴こえる 遠くでする何かの鳴き声を混じりながら