あの運送屋のトラックから飛脚が消え アルファベットのロゴになったときに
ボクは生きてゆく希望と光を 亡くした
トラックに描かれた 飛脚の赤いふんどしに触れると
いつか幸せになれる そんな出どころの解らないそれを ずっと信じていた
そんなことを信じないと 生きていけないくらいに
ボクは 狭苦しいなにかに頭を突っ込んで 暮らしていた
それは己がしたことなのか 環境がそうさせたのかは
そのときのボクには わからなかった
学校にいても 家に帰っても 図書館へ行っても
ボクの言葉の届く人など どこにもいなかった
言葉を声にしようとしても ただ息苦しく
微かに鳴ったその音は どこへも届くはずもなかった
悪い夢をずっと見ているような心地だった
ボクはそんな 狭苦しい何かに頭を突っ込んで暮らしていた
いつか ボクの声が聞こえる人に 出会えるはずだと
願いを込めて触れていた 赤いふんどしが トラックから消えたのだ
一人 学校の帰り道 いつもだいたいあの時間 だいたいあの橋のたもとに
止まっていたトラックの 赤いふんどしに触れて帰るのが日課だった
その日から その運送屋のトラックから飛脚が消え
アルファベットのロゴへと 変わってしまったのだ
ボクは絶望した
救いもなにも亡くし ただトボトボを歩く その通学路の商店の
ステレオのラジオから ブルースハープが聴こえた
その音楽は ボクのノドをギュッとさせてたモノを すっと解いた
ボクはしばらく 商店の前で足をとめて 聴き入った
そんなことがあってから 何十何年という時が経った
音楽家が ノーベル文学賞を 受賞したことで
そんな大人にもなれない 幼い頃のことを思い出してした
本に限らず 歌のその歌詞に 救われたり学んだことも たくさんあった
なんてボクが 文にするとまた薄っぺらく胡散臭い
兎にも角にも 音楽家がノーベル文学賞を受賞したことを
とても喜ばしく思った 昨日と今日だった