2015年2月19日木曜日

カップラーメンの自販機の影に隠れて キッスをしよう



「オレ ノグチ! よろしくな!!」


大きな声で バスに乗り込んで来て 片っ端から
バスに乗っている人に挨拶していたのは 

となりのとなりのとなりの高校で 
とにかく陽気なことで有名だった ノグチくんだった

噂は予々聞いていたが 
ボクは彼に会うことなんて 一生ないだろうと思っていた 
けれど そういうわけには いかなかった


2月の 田舎の駅から田舎の教習所に向かうそのバスは
進学や就職が決まった高校生ばかりが乗っていた

そこにいる だいたいの高校生は
春からの新生活に 夢をふくらまし だいたい浮かれていた


その日のそのバスに 初めて乗ってきたノグチくんは 噂以上に絶好調で

⚪︎⚪︎の 元カノだよね?! オレ、ノグチ! よろしくな!」

などと そんな調子で 全員に挨拶をしまっくていた

全員に声をかけ終えると  今度は教習所に着くまでの30分間
「オレのヤバイ先輩 ジュンジさん」の話を 一人で延々と話していた

それに耳を傾ける者は 2~3人くらいだった



朝一番だったそのバス 
朝一番のコマを 少し早めに終えたボクが待合室に戻ると

ノグチくんは 一人で黙って そこに座っていた


2番目のコマを終えて 待合室にいくとノグチくんは 

とびきり憂鬱な顔で 誰とも話さず また一人で黙って座っていた

朝の様子から 想像もできないくらいに ノグチくんは憂鬱だった



どうやらノグチくんは  入校式の日を 1日間違えて来てしまったらしい


お昼まで帰るバスがない 田舎の教習所

ノグチくんは半日 羞恥心を噛み締めながら 

その待合室で ただ黙って過ごしていた



次の日の朝一のバス ノグチくんは 静かにバスに乗り込んできた 

そしてただ黙っていた 昨日の憂鬱を抱えたままだった

そしてノグチくんは 静かに入校式を 終えた


陽気で有名だったノグチくんの面影は 
己の些細なミスで どこか遠くに消えてしまったようだった






教習所に行く前 ボクは 必ず立ち寄るコンビニがあった

となりの高校の かわいいあの子が バイトしてるからだ


白いナイキのエアフォースワンのローカットを履いていれば
だいたいおしゃれなヤツとされていた その時代に

あの子はいつも制服に 白いエアフォースワンのミッドカットを履いていた


その履きこなしが 妙にオシャレに思えて
ボクは そんなオシャレな彼女に恋をした


ボクはいつも そのコンビニで売っている一番オシャレそうなものを買い
ブサイクの田舎者の小太り野郎のくせに 必死でおしゃれアピールをし続けた



いつものように 教習所バスに乗る前 あの子のいるコンビニに向かおうとすると


あの子は ボクの目の前を 歩いていた

エリアシを長く伸ばした髪型のヤンキーと 手をつないで


「なんであんなオシャレな子が あんなヤンキーと!」

と発狂しそうなほど 悲しい気持ちでいっぱいになったボクは


窓ガラスに写る 自分を見ると

それ以上に 自分がブサイクであることに悲しみを覚えた


その日の教習で ボクは坂道発進を 大失敗した


教習所は 心の傷の癒し方は 教えてくれなかった


その次の日から ボクは教習所を登校拒否した
登校拒否したまま 31歳になった 


だから今でも無免許なんだ


恋も 無免許のままなんだ



そんな教習所の思い出


2015年2月11日水曜日

ホットケーキは 温かいうちに食え

朝食に ホットケーキを食べて コーヒーを飲んで

それでもなんだか 物足りなくて


買っておいた あみじゃがの 封を開ける

思わず コカコーラのボトルも 開ける


朝からジャンクフードを摂取した その罪悪感 



それを抱きながら 今日という休日を過ごすことを 自ら選んだ



なんでもアリで 全ての自由を手にしたつもりで

なんの予定も入れていない 休日も

誰かが定めた「祝日」という ルールの上にあって


そうボクらが自由だと思っていることは

結局 誰かの大きな大きな手の中にあって ボクらはそこで踊らせているだけなのか  




「パンクならいいっしょ」 それが口癖だったあの頃は

どんなに非道なことをしても その言葉だけで すべてが許されると思っていた


学校をサボることも 公道でのスケートボードも 大音量で聴くSHAM69も
講義中に口ずさむダムドも 出会ったばかりの君にした突然のキッスも


「パンクならいいっしょ」 その言葉で片付けていた


入学金と授業料を支払ったことで得た 
なんの責任も背負わずに  何時に寝ても 何時に起きても
誰にもなにも いわれない その時間を


ボクは非道な行動することが 正当であるかのように生活していた



自由の意味をはき違えていた


好き勝手にやること 自分に甘えて生きることが 自由だと勘違いしていた


そんな自分主義な主張の 歌詞内容と
根本的に演奏出来ない楽器を ハチャメチャに演奏した その曲は
当然のように 誰からも評価されず 

終いには「天才にしかわかりっこない」「わかる人にだけ聴いてもらえればいい」

という言葉で 自分を慰め  結局 なにも学ぼうとも 努力もしようとせず


売れないチケット こなせないノルマを おばあちゃんからもらったお小遣いで 支払い

だれもいないライブハウスで 間違ったパンクミュージックを奏で続けた



ボクはただの 明日のスーパースターを夢みる甘ったれ野郎

略して スーパー甘太郎だった




結局 誰からも相手にされなくなって さみしくなり
自慢のモヒカンも 剃り落とし トゲトゲのベルトも捨て

流行りのストリートブランドを着て 再び友達の輪に飛び込んでみたけれど

もう誰も相手をしてくれなくなっていた 

(間違った)自由と代償に ボクは友達を失った



それまでの出来事を 泣きながら おばあちゃんに電話で 話した

最後に「でも パンクならいいっしょ?」と 尋ねると


おばあちゃんは 何も答えてくれなかった


ボクは 余計に泣けてきた 

ボクの得ようとしていたモノなんて ただの甘えだった




あの頃 わけもわからず聴いていた  スペシャルズのあの曲の その内容も


わかったのは ずっと大人になってから


生まれたところや 皮膚や目の色 政治的な思想 宗教的な思想
そんな違いや 差別を超えての 平等や自由を 訴え続けた 

ネルソンマンデラ氏が 解放されたのは 今から15年前


ボクは 師を知り 
自分のしてきたことの 恥や無能さに 気がつくのと 同時に
自由を得るためには 多くを学ぶことが必要なことを 学んだ


ルールや現実に 目を背けることは 自由ではなく
それと向き合った その先に 自由があるんだ



あみじゃがを食べた終えた その袋の底に 自由はあった

あみじゃがは とてもとても おいしかった

穏やかな朝食の時間と  コカコーラとあみじゃがを食べられるという その自由と 

その先の自由に 喜びと 感謝を


祝日も休日も どう過ごそうとも 自由なことに 喜びと 感謝を


2015年2月8日日曜日

レモンジュースはすっぱいから いいんじゃないか


お月さんが明るすぎて 見えなくなってしまった
小さいけど キレイな星 君はそんな人だった


ボクは昼でも 夜でも いつでも 
誰からも見えない 見られていない 小太りの透明人間として
高校生活3年間を 過ごしていた つもりだったから

20歳をすぎてから あの子は
「あの頃 ちょっとだけ君のことが好きだったんだよ」と 
ボクに メールをくれた 

ボクは ひどく驚いた


あの頃のボクが 小太りの透明人間だったからでもなく
あの頃のボクが ただの恋愛トンマだったわけでもなく

あの頃のボクが ただなんの取り柄もなく 地味で
顔の細工も頭も悪く 救いようのない 小太りのボクに

少しでも興味を持ってしまった あの子の その恋が


「アレはないっしょ」と 
友人に一刀両断されてしまったことにより

「ちょっとだけ」のうちに 
消えていってしまった恋 だということを

ボクには すぐに想像がついた


クラスのみならず 他のクラスの人からも人気のあった子と
いつも一緒にいた あの子



20歳をすぎてから あの子と再会したのは
たまたま 入った銀行の窓口

ボクが 差し出した振り込み用紙を受け取り
「わたしのこと覚えてる?」

とボクに話しかけてくれた 窓口のおねいさんが
あの子だった


ボクは その時自分に出来る限りの かっこいい仕草と声で
「お おう」

と 答えた  言うまでもないが ボクは小太りだった


それから  メールのやりとりをした

懐かしい話 思い出話 忘れかけていた話 をたくさんした

あのとき彼女は 
そんな風にそれを見ていて そんな風に思っていたんだ と
ボクは ハッとするような ことばかりだった

あの頃のボクは あの頃の彼女を 少し勘違いしていたようだ

そんなことを思っているうちに またメールがきた

「あの頃 ちょっとだけ君のことが好きだったんだよ」


ボクはなんて返したらいいのか 言葉が見つからなかった
その言葉が 嬉しかったはずなのに 
さっきまで あんなに楽しかったメールの はずなのに

上手に言葉がでなくなり 上手にメールができなくなった

「あのとき あの子と付き合っていたら」 という
どうしようもない想像が また心をしめつけた


それから パタリと 彼女と連絡をとらなくなった

それから 妙に心がすっきりして
ボクも だれかに好かれることがあるんだなと しみじみ思った


ボクらは 恋する惑星に 生まれたんだ


とある日の スーパー銭湯

次から次と お風呂を 移動するたびに 

視界に入ってくるおじさんがいた

それから おじさんは 

ボクが移動するたびに ボクのとなりのお風呂に移動するようになった


ボクは次第に 逃げるように お風呂を移るようになった


そして できるだけ遠くのお風呂に  逃げ切ったつもりで 入った

その 瞬間

おじさんが 両手で頬杖をついて ボクだけをみつめて

となりのお風呂に入った

その 瞬間


ポカポカに温まったはずの体に 寒気が走った


ボクは 逃げるように銭湯を出て

いつも帰らない道を通り できるだけ遠回りをして 家に帰った


あれほど 本物の透明人間になりたいと思ったことはなかった



ボクらは恋する惑星に 生まれたんだ



2015年2月3日火曜日

布団を一枚 毛布は5枚 柿の種は5000円



朝 軽めの便意を 軽く催し

床で 寝袋で眠る 家主をまたいで ボクは トイレに行った

彼と出会って数年になるが 彼の部屋に泊まったのは初めてだった


洋式便器に座り込んで 「いざ」というときに気がついた

ホルダーにトイレットペーパーがない 
むしろ そこにトイレットペーパーがあった形跡すらない

トイレの中を見渡しても 
予備のトイレットペーパーどころか 掃除用具もない

扉を開けた時に 「なんだか殺風景だな」と 
思ったことを ふと思い出した

腹筋から肛門に 強い思いを込める前でよかった

ボクは なんとなく心のどこかに その便意を抱いたまま
 
近くの100円ローソンへ行って 
トイレットペーパーと 100円で売っていた ガンプラを買った

100円ローソンは トイレを貸さないタイプのコンビニだったので

帰ってから 彼の部屋のトイレで ゆっくり 腹筋から肛門に 思いを込めて
ずっと抱えていた 便意と オサラバした


「早く起きるの 得意なんすよ」 
と言っていた 彼は やっぱり 早起きしてくれなかった

だからボクは 彼が起きるまで ガンプラを造った


その前の晩 「泊めてよ」という 急な ボクのお願いに 
「いいですよ」と 答えてくれた 彼に 呼び出された場所は

上裸のユダヤ系男性が 踊る カラオケバーで
彼はそこで 藤井隆の 「ナンダカンダ」を歌っていた

彼は物静かな男性だが やるときはやる男だと 
うすうす気がついていたけれど それが確信となった


結局 4時頃まで呑んだ

大層呑んだろうに 帰ってから彼は ボクに色々 気を使ってくれた

なんだかんだ いいヤツなんだろうと 
思っていたけど それが確信となった


それなりに長くつき合っていても 
二人きりになってみないと その人の善さを知らなかったり 
気づけなかったりする

なんとなく思っていたけど 彼はいいヤツだった


でも なんでトイレットペーパーがなかったか 
聞くことは できなかった

それを聞いたら なんとなくこの日につまった心の距離が 
また 遠のいてしまいそうな 気がしたから


ボクと彼は 友達になるまで まだまだ時間がかかるのか
この先 友達になれるのか まだわからないけど

なんとなく 彼がいいヤツだということを知れて よかった


そんな2月の始まりだった